東京地裁・春名茂裁判長
明治乳業の不当労働行為認めない不当判決
しかし、過去の差別は否定せず

(2018年12月3日)

明治乳業賃金等差別事件に関する
中労委命令の取消訴訟についての地裁判決に対する声明

1 不当労働行為の救済を否定した中労委命令を追認した不当判決
 東京地方裁判所民事第19部(裁判長裁判官春名茂・裁判官西村康一郎・同 関泰士)は、平成30年11月29日、長期の職分賃金差別の不当労働行為救済を否定した中労委命令の取消を求めた原告30名の行政訴訟(平成29年[行 ウ]第149号、同第375号)について、不当労働行為の成立を否定した中労委命令を追認し、原告らの請求を棄却する不当な判決を下した。

2 長期の職分賃金差別を不当労働行為として救済しなかった中労委命令
 本件訴訟で取消の対象たる中労委命令(平成 25 年〔不再〕第 61 号、平成29年2月17日交付)は、全国9事業所で働いていた申立人32名が株式会社 明治から長期間にわたって受け続けた職分賃金差別(以下「本件差別」とい う)に関するものである。本件差別は、申立人32名に対し平均 97 万円(月 例賃金4~5か月分にあたる)に及ぶ大きな賃金差別があり、また基幹職1級 への昇格で13年以上遅れるという際だった職分差別があり(平成5年度で他 の従業員集団が「基幹職1級以上」に昇格している割合が 85%以上に達しているのに対し、原告ら集団[63 名]は 30%に過ぎず追いつくに約13年かかる)、何より新職分制度が導入された昭44年以降から退職まで続いた差別 であった。にもかかわらず、中労委命令は不当労働行為にならないという不当な判断を下した。

3 地裁判決の3つの大きな誤り
 ところが誤った中労委命令を正すべき地裁は次の3つの大きな誤りを犯し、中労委命令を追認して、原告らへの長年にわたる本件差別を救済しなかった。
 まず第1に、本件差別が複数年度にまたがる「継続する行為」に該当して、 遡って差別等を判断すべきとした原告らの主張に対し、地裁判決は中労委命令と同様にこれを否定した点である。地裁判決は申立て1年前の平成 5年4月1日に行われた昇格昇給決定行為について(つまり平成 3 年~5 年の人事 効果成績)不当労働行為の成否を検討すれば足りると判断した。
 次に第2に、平成 5 年の昇格昇給決定行為の根拠となる人事考課成績につ いて、例えば標準的人事考課分布で 10%から 20%とされるB考課について、 原告らの多くが 1 名(3.1%)ないし2名(6.3%)であって、他の従業員集団と比較して原告らに対しては3分の1程度しか付けられていない(分布していない)にもかかわらず、地裁判決は「有意な格差」ではないとして不当労 働行為性を否定した点である。
 そして第3に、平成 5 年度に会社による不利益取扱いの事実(職分格差) が認められれば、「累積差別の一括是正方式」で差別を救済することが従前 の労働委員会命令及び判例であったところ、地裁判決はこの方式を適用する には、平成 5 年の昇格昇給決定行為の根拠となる人事考課成績に不当労働行 為が認められることが必要だとして、中労委命令と同様にこの手法を否定し た点である。

4 複数年度にまたがり累積した賃金差別等の救済の道を否定した判例
 労組法は1年間の除斥期間を定めているが、賃金昇格差別事件はほぼ例外 なくこの除斥期間の範囲を超えて継続的・累積的に格差が形成されるという特質をもつ。そこで不当労働行為の結果の排除と除斥期間の定めの矛盾をど う調整し妥当な結果を導くべきかについて、労働法学界及び労働委員会は本 件のような長期の職分賃金差別行為を「継続する行為」に該当すると解して救済したり、「累積差別の一括是正方式」で不当労働行為により生じた現存 する差別を将来に向かって是正して救済するなど工夫してきた。例えば「賃 金上の不利益取扱については、救済対象となる期間において、会社による不 利益取扱の事実が認められ、かつ、現に存する差別について救済を求めているときには、その差別の是正を命じることは、労働組合法 27 条2項になんら
抵触するものではない」として救済した新日本石油化学事件命令などである。 地裁判決(追認された中央委命令)はこうした中労委が積み重ねてきた救済を投げ捨てたものである。私たちはこの異常な判断に強く抗議する。

5 維持された中労委命令の付言等を活用して争議の解決を
 地裁判決が維持した中労委命令は、事実認定においてインフォーマル組織 に会社が関与したこと等を認めた。また「第5付言」で会社の職制らが申立人らに対し「誹謗中傷と評価されるのもやむを得ない活動を行って」いたと 認め、会社が職制らのこの「活動を抑制することはなかったという限度においては、非難を免れ得ない」と厳しく批判し、職分賃金格差が「存在してい たのは紛れもない事実である」と強く指摘し、その解決を求めている。
 こうした中労委命令及びこれを追認した地裁判決を契機に、我々は会社に 対し、長年にわたって行われた争議について、当事者間の交渉で早期に全面的な解決をするよう私たちは強く求めるものである。会社が早期に私たちと 交渉してこの争議を解決することこそが、食品の安全・責任を尊重する食品企業としての会社に相応しい態度であると確信している。

2018年11月29日
明治乳業争議支援共闘会議
明治乳業賃金昇格差別撤廃争議団
明治乳業賃金差別事件弁護団

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